植物と共生する微生物で未来の農業を創造する
自然界の植物は様々な微生物と共存して生きています。微生物の中には病気を引き起こす病原菌がいる一方、植物に栄養分を供給する微生物や、病害抵抗性や乾燥耐性などを引き出す有用な微生物も存在しています。地球温暖化や生態系破壊が急速に進む中、化学肥料、化学農薬を使用せずに、自然と調和しながら安心安全な作物を生産するためには、植物の健全な生育を支える微生物機能を最大限に活用する必要があります。
私達は、植物と共生する微生物の生態や、植物との共生メカニズムについて科学的に理解し、それを農業生産や環境浄化技術にフィードバックすることにより、持続的で安心安全な未来の農業へ役立てることを目指しています。
現在、私達の研究室では、農業生産における微生物機能を最大限に活用するため、①世界各地からの有用微生物資源の発掘、②植物-微生物共生の分子メカニズム解明、③微生物機能を利用した新技術の開発、を主要課題としてしています。世界各地からユニークな微生物を発見したり、植物と微生物の新たな共生機構を解明したりするサイエンスの面白さと、未来の農業に役立てるという実学の精神を両立させることを目指しています。
①世界各地からの有用微生物資源の発掘
自然界の過酷な環境中で生き残るために、植物はさまざまな微生物と共生しています。微生物の中には窒素やリンなどの栄養分を供給する微生物や、植物の病害抵抗性や乾燥耐性などを引き出す微生物も存在しています。世界各地の様々な環境に出かけて、多種多様な有用微生物を発掘し、植物の生育促進効果等の有用形質を評価し、新規微生物資源として活用する基盤を整備します。
②有用微生物の生態や植物との共生メカニズムの解明
根粒菌や菌根菌など、植物と共生する微生物たちは、植物と共生するための独特な戦略をもっています。一方、植物も微生物と共生するための遺伝子セットを持っています。分子生物学やオミクス解析を軸として植物-微生物共生の分子メカニズムを理解し、ゲノム育種等により共生関係の強化や新規共生系の創出により作物生産へ貢献することを目指しています。
③微生物機能を利用した新技術の開発
栄養分を作物に供給するバイオ肥料や、病害抵抗性や乾燥耐性などを引き出すバイオスティミュラント、温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)を低減する微生物資材の開発など、作物生産や環境浄化に微生物機能を活用する技術開発を行います。